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Vol.11:中須賀克行さん

「矢富笑店」の2010年度バージョンです。2010年も矢富選手の軽快でいて、核心を鋭く突くトークをお楽しみください。

続・矢富笑店 Vol.11:中須賀克行さん

中須賀 克行 なかすが かつゆき

1985年福岡県出身 レーシングライダー
2005年からロードレース日本最高峰のJSB1000クラスにヤマハYZF-R1を駆り参戦。2008・2009年に2年連続で年間チャンピオンに輝くなど、人気と実力を兼ね備えたトップライダーの一人。レースではスタートダッシュを得意としており、ホールショット(スタート直後の第一コーナーに最初に飛び込むこと)からレースの先頭を引っ張る姿も多く見られる。

ライダーになろうと思ったきっかけ

初対面の中須賀選手に少し
緊張気味?の矢富選手

矢富 ● 今日はお忙しいところ、有難うございます。

中須賀 ● こちらこそ有難うございます。

矢富 ● 早速なんですが話を聴いていきたいと思んですけど、正直なところバイクレースは仕事するまでは詳しく知らなくて、仕事をきっかけに知るようになったんです。まあ自分がやっているラグビーもメジャーな競技ではないんですけど。

中須賀 ● 僕自身もラグビーは観たことないですね。

矢富 ● だからって言う訳じゃないんですが、なんでバイクレーサーを始めたんやろうと思いまして。きっかけは何だったんですか?

中須賀 ● お互いそう言う疑問ありますよね。僕の場合はお父さんがめちゃくちゃバイクが好きで、それがきっかけですね。結構バイクレーサーになった方はお父さんがバイク好きで始めたっていう方が多いですね。

矢富 ● じゃあ、お父さんがいたからこそっていう感じですかね?

中須賀 ● 間違いないですね。親の理解と協力なしでは、なかなか難しい感じですね。

矢富 ● バイクレースをずっとやってこられて、嫌になったりしたことないんですか?

中須賀 ● 幼稚園からポケバイを乗り始めたんですけど・・・

矢富 ● 幼稚園ですか? 凄いですね。

中須賀 ● ポケバイには30ccぐらいのエンジンが付いてるんですが、幼稚園児じゃ乗れませんよね。だから、ポケバイに補助輪つけたり、お父さんがバイクに紐つけたりして最初は乗り始めたんですよ。

矢富 ● バイクに補助輪ですか?(笑)めっちゃ凄いですね! 自分達が、自転車に乗る感じがバイクやった感じですね?(笑)

小さな頃からバイクに乗っていた中須賀選手

中須賀 ● そうですね。バイクは好きだったんですが、小学生の時って、“友達と遊びたい”とかあるじゃないですか? 遊んだりするのが出来なく拘束されるんで、嫌でしたね。だから物心ついてきた時ぐらいの小学校から中学生ぐらいが一番嫌でしたね。

矢富 ● なるほど。でも、なんだかんだで続けてきたって感じなんですか?

中須賀 ● なんだかんだっていうより、成績も出ていましたし、なにより親が僕をバイクに向かせるようにしてくれましたね。

矢富 ● 小さいときにも大会(レース)ってあるんですか?

中須賀 ● あるんですよ。年齢別の大会ではないんですが、ポケバイは30cc、40ccとあるんでクラス別でありますね。

矢富 ● かなり小さい時からやってはるんですね。

共通点を探る

矢富 ● まあ共通点の前に、自分が聞きたい話があるんです。以前、どこかの番組でやっていたんですけど、F-1ドライバーの人達は、前に走っている車に後ろから車でタッチすることが出来るらしく、ほんで、前に乗っている人はタッチされたことに気づかないぐらいに出来ると聞いたんですが、バイクでもそれぐらいのコントロール出来るんですか?

中須賀 ● 全然楽勝ですよ! サーキットで250~260km/hぐらいで走っていて、同じように走っているバイクのブレーキレバーを“ちょちょちょん”って叩いて逃げたりとか、いろいろ出来ますよ。実際はそんなことしませんけどね。

矢富 ● すごっ! 凄いとしかいいようがないです(笑)。ちなみにバイクの免許っていつ取得しはったんですか?

中須賀 ● 2年前に大型免許をとりました。それまで(バイクの)免許はもっていませんでした。

矢富 ● んっ? 免許もってないのにバイク乗れるんですか?

中須賀 ● レースは免許ではなくライセンスがあるんですよ。サーキットでしか乗らないから。

矢富 ● じゃあ、仕事でしか乗らん感じですか?

中須賀 ● そうですね。逆に一般道で走るのはまだ慣れてないですね。サーキットならばバイクの性能とかも全部わかるし、サーキットでは対向車線とかないし(笑)。だから本当に一般道でバイクに乗るのは素人です。

矢富 ● めっちゃ職業病ですね。

チャンピオン経験者が一本橋で脱輪!?

中須賀 ● 免許を取るのも教習場に通わずに試験場に行ったんです。「オレ、バイクには乗れるから」って。でも最初の試験では一本橋で脱輪してアウト、二回目のチャレンジでは波状路でエンスト・足付きして試験終了。三回目で合格したんですけど、奇跡だったと思います(笑)。

矢富 ● 自分は中型免許持ってるんですが、試験の時に一本橋は一発でクリアしましたよ(笑)。

中須賀 ● バイクの免許を取って、仲間とツーリングしたことがあるんですが、その時に「お前バイクの運転下手だな」って言われましたからね(笑)。

矢富 ● あはは(笑)。300km/hで走ってる人がそんなん言われるんですね 。

中須賀 ● もう一般道で走っているときはガチガチですよ!

矢富 ● 話が少しずれてしまいましたが、共通点を探してみようなんですが、共通点を探してみたらお互いに絶対避けて通れないのが怪我やと思うんですが、今までで一番大きかった怪我はなんですか?

中須賀 ● 怪我の大きさでいったら高校2年の時。記憶が定かではないんですけど、肩から落ちて肩の神経をやってしまったんですよ。一年間も指先だけしか動かなかったんです。一年間動かないから筋肉が落ちていって、凄く肩に負担がかかるんで、ずっと肩を三角巾で吊っている状態でいましたね。

怪我の話に興味津々の矢富選手

矢富 ● うわぁ。筋肉が落ちていく感覚、わかります。

中須賀 ● 当時、医者からは「もう動かない」って言われてたんですよ。僕はそれを聞かされていなかったんですけど、動くようになってから親に聞いてみたら、医者は親に言っていたらしいです。でも僕は知らないから動くと信じてリハビリもしましたし。

矢富 ● じゃあ知らなかったのは正解ですね。

中須賀 ● そうですね。意識の差って凄くあると思んですよ、人間の見えない力って自分はあると思いますから。

矢富 ● 腕が動かない大怪我して、その後レースで怖いと思ったことないんですか?

中須賀 ● 一度も怖いと思ったことないし、いま上位で結果残してる人達は、自分は転倒しないと思っているし、転倒しても怪我しないと思っているし、怪我しても重傷にはならないと思っている人達ばかりですからね。

矢富 ● なるほど。怖いと思ってる人ではやれないですよね。

中須賀 ● 試合に出て「今日は骨折してやる」と思ってやらないですよね ?

矢富 ● やらないですね(笑)。

矢富 ● トレーニングはどんなんしてるんですか? ウェイトとかしはるんですか?

中須賀 ● ウェイトはほとんどしないですね。その代わり、持久力つけるためにランニングはしますね。

矢富 ● やっぱり持久力は必要なんですか?

中須賀 ● 持久力というより集中力が大事だと思うんですよ。ここは共通するところだと思うんですけど、試合中にしんどいなと思った時点で集中してないと思うんですよ。そう思った時点で判断が鈍るし、ここだという場面で行動に移すのが少し遅れてしまってミスに繋がったりとか。集中している時って、しんどいとか思わないじゃないですか?

矢富 ● 確かにそうですね。集中してるときは、ほんまになんも考えてないというか、しんどい状況でもそんなん考えないで、身体が動いてますもんね。

中須賀 ● だから体力と集中力は直結してると思うんですよ。レースでは40分ぐらい走ってるんですけど、どうしても後半タイヤのグリップが落ちてきて滑り出したりすると、更に集中してバイクを操作しないといけないし体力も使うんですよ。そこで、しんどいとか思ってしまうとミスしたりするんですよね。だからランニングは10キロを走ることを欠かしませんね。

矢富 ● 持久力=集中力はどの競技にも言えることですね。

集中力を高めてレースでスタートダッシュを決める中須賀選手(ゼッケン1)

ラグビーとレースの対比

矢富 ● ラグビーは15人がいないと出来ないスポーツです。レースももちろん色々な方がいないと成り立たないと思いますが、最終的には自分自身とバイクだけでレースになるじゃないですか? 最終的には「対 機械」になると思うんですけど、その辺は一人でやっているって感じなんですか?

中須賀 ● そうですね。「対 機械」なんですけど、それまでにみんなで作り上げてきた物だと僕は捉えているし、一人でレースをしているなんて今まで一度も思ったこともないし、みんながいての自分だと思っていますね。機械だと、やっぱりどこか壊れたりとか、そういう邪念があるとレースで攻めれないし、それがないようにする為に、メカニックの方とのコミュニケーション、意思疎通、そしていかにしてみんなを同じ方向を向かせるかですね。こいつを勝たせてあげたい、チャンピオンを取るんだとか、みんなが同じ方向に向かないと絶対に勝てないと思うんですよ。誰か一人が、今日はめんどくさいなって思ったらまとまらないし結果はでないし、全員が完璧な仕事をしないと自分も完璧な走りができないし、だからこそみんなの思いを背負って自分はいいタイムを出してみんなを引っ張っていかないといけないし、そうやって「対 機械」だけど、みんなを信頼しきってレースしていますね。

矢富 ● すごいっすね。共感できます。けど、外から見てしまうと、中須賀さんメインで目立つというか、メカニックの人達は見えない存在やと思うんですよ。その見えない人達の存在を背負ってやっているのは本当に凄いですね。

中須賀 ● そうなんです。だからこそ自分は色々な人達が協力して作ってくれたバイクで必ず結果を出さないといけないんですよ。じゃないとみんな自分を信用してくれないじゃないですか。だから結果は大切ですね。

ラグビーもレースもチームのまとまりが必要

矢富 ● ラグビーもほとんど一緒ですね。ただ少し違うのがラグビーに関しては、自分のポジションだけが目立っても試合に勝てないし、下手すると自己中心的なプレーで終わってしまう可能性があるんで、そういった点では少し違うかもしれないですね。でも根本の試合に勝ちたい、レースに勝ちたいと思う気持ちに関しては、全員が同じ気持ちにならないと勝てないので共通する部分ですね。

矢富 ● ラグビーもレースも色々な人が支えてくれて、試合、レースが始まるまでに最高の準備をして自分達を送り出してくれるんは一緒やと思うんですけど、いざ試合、レースが始まりましたって時に、例えば、ラグビーなら自分が試合前に急に腰が痛くなるとか、ちょっと最高のパフォーマンスが出せないとかになっても、14人が自分の分まで頑張ってくれたら勝てることもあると思うんですが、レースに関してはそう簡単にはいかないじゃないですか? レース前に身体の調子が悪くなったりしたときとか、今日はマシンが少しおかしいとかはあると思うんですが、どういう対処しているんですか?

中須賀 ● もう何とかするしかないですね。でも何とかしていますけどね(笑)。

矢富 ● 孤独っていったら孤独ですね。レースが始まると責任を全部背負わないといけないじゃないですか。

メカニックと打合せをする中須賀選手

中須賀 ● そこに関しては孤独かもしれないですね。でもメカニックに関しては一生懸命やってくれた結果なんで僕は責めないし、自分自身に関しては、常に自分のマックスを出せるように意識してやってきているから、レース前にどこか調子悪いとかはほとんどないですね。

矢富 ● プロですね。ラグビー選手も試合に合わせて調子を上げていくし、毎試合最高の状態で臨もうとしているんですけど、どっかで多少の甘えとかあると思うんです。レースはそんな事出来ないし、本当に自分自身の状態に敏感というか意識しないと駄目ですもんね。自分達も中須賀さんが背負っている責任を見習わないといけないですね。本当に責任感の強い方だなと思います。

中須賀 ● でも、これがもしヤマハのライダーがたくさんいたら違ったかも知れませんけどね。一人だから、この大きな会社を一人で宣伝していかないといけないし、そういった責任感は強いかも知れませんね。

矢富 ● 責任重いですね。

中須賀 ● 重いですよ! でも、ヤマハに関する人達はそうあるべきなんですよ! お金をもらってる訳ですし、大きさはどうであれみんな責任を背負っているわけだし、勝負の世界になると自分が負けると、自分だけじゃなくヤマハもそうだし、ヤマハの全社員が負けることになると思ってるんです! だから結果が一番大切になってくるんですよね。

矢富 ● 今度、ラグビー部に講師として来てくれませんか?(笑)

選手として

矢富 ● 先ほど、レースに望む前にはコンディションを最高の状態にもっていっていると言っていたじゃないですか? 何かレース前、レース後、また練習などで、必ずやっていることとかありますか?

黄色い靴下をまとめ買いしている中須賀選手

中須賀 ● 結構ジンクスとかを気にしているんですけど、ラッキーカラーとかそういう色々なことなんです。自分のラッキーカラーは黄色なんですけど、レースの前には新品の黄色の靴下を履いたりとか。

矢富 ● なんで黄色が自分のラッキーカラーと知ったんですか?

中須賀 ● 占い師さんに見てもらったんです。運もそうだし、流れも引き寄せてくれるし、怪我もしにくくなるからと言うことで、黄色ですね。あとは、レース前に山を登ったりとかですかね。山を登るのは、なんか色んな欲を排出するっていうか、綺麗なものを貰うというイメージをもって登りますね。山、自然に綺麗にしてもらう感じですね。それ以外にも気分転換にもなりますし。

矢富 ● レース前に山登り! 日常的なところでは?

中須賀 ● あとは、塩で身体を洗ったりとか。

矢富 ● ボディーソープを使わないで塩で身体洗うんですか?

中須賀 ● 違います(笑)。最後に締めで身体を清める感じですね。やっぱり走行中にいろんな欲が出てこないようにと、毎日新しい自分で挑めるようにってことですね。

バイクに塩を撒いてレースに臨む

矢富 ● 遠征のときは大量の塩を持っていくんですか?

中須賀 ● 持っていきますね。

矢富 ● やっぱり、その塩にもこだわりがあるんすか?

中須賀 ● それはないんですよ。

矢富 ● なんかこだわってそうじゃないですか? そこはこだわりましょうよ!(笑)塩はなんでもいいんですか?伯方の塩や普通の食卓塩でも?(笑)

中須賀 ● 塩はなんでもよくて、いつも黄色いマイコップは持っていってるんですけど…。

矢富 ● そこはこだわりを(笑)。

中須賀 ● お水はこだわりますね。

矢富 ● 身体を流す水ですか?

中須賀 ● いえいえ、あのね、飲むっていうか、山の一番上に涌き水が流れてるんですけど、それを汲んできて、レース前の木曜日の夜からやるんですけど、お水と、塩を盛って清めっていうんですか、それに対して手を合わせて、朝起きたらその水を飲んで、飲んだコップに塩を入れて、金曜日から走行なんで、乗る前にその塩をバイクに撒いて走るんですよ。

ジャンルは違えど同じアスリートとしての
話に耳を傾ける矢富選手

矢富 ● なんか神聖な感じがしますね。

中須賀 ● 結局、何かにすがりたいんですよ。いつ転倒したり怪我するかもわからないから。ただ、このルーティーンをすると、よし! いける! って気持ちになるし、そういう自分になれるからこの行為は大切ですね。

矢富 ● 自分も怪我が多いので、そういうルーティーンをしっかりと持ったほうがいいですね。

中須賀 ● そうですね。こういうジンクスを作って、自分が今日はいけるって気持ちになるのって大切だと思うんですよ。今日は自分駄目だなと思った時点で、どんなに頑張っても100%の力は出ないと思うんですよ。体調どうこうじゃなく、やっぱり常に100%の気持ちになるっていうのは、どのスポーツにおいても大切なことだと思うので!

矢富 ● そうですよね。かなり勉強になりました。

対談を終えて(中須賀選手)

違う種目でも、やるべきことは一緒だし、勝ちにこだわるのが凄く大切だと思いましたね。ラグビーならリーグ優勝ですか? それを真剣に目指しているのが矢富選手から伝わってきました。自分も本当に負けられないなと思いました。矢富選手、本当に楽しい時間を有難うございました。

矢富選手の独り言

今回の対談は自分自身が成長することが出来たような実感を得た対談でした。中須賀さんとは種目も違えば、まったく違う世界にいる人だと思っていましたけど、実際は共感する部分が本当に多く、ためになることばかりでした。印象深いのは「勝負の世界は自分が負けると、自分だけじゃなくヤマハの全社員が負けることになると思う、 だから結果が一番大切になってくるんです」という中須賀さんの責任感の強さ。ラグビーも一緒、ヤマハ発動機ジュビロが勝つことはイコールヤマハ発動機全社員が勝つこと。頑張ります!

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