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シューラー監督ロングインタビュー

現場の最前線に復帰したシューラー監督が、今季の目標や春季オープン戦の見所などを語ります。

シューラー監督ロングインタビュー

「5月28日。今日は息子の13歳の誕生日。ハッピーだけど朝4時に起きてお祝いをしたので、ちょっと眠いよ。」と言いながらも笑顔のケビン・シューラー監督。1992年に来日して早17年目。日本語を流暢に操りながら、お馴染みのちょっと早口なインタビューは、現場の最前線に復帰し、期待を背負いながら迎えた春シーズンや今季の目標、そして6月からのオープン戦の見所をお聞きしました。

—— 総監督、アドバイザーの3年間を経て、今シーズンは現場の最前線へ復帰しました

シューラー監督(以下シューラー) ● ヤマハから依頼を受けた時は、正直やりたいと思いましたが、家族のことやベイ・オブ・プレンティ(BOP:Bay of plenty)との契約がありました。特に昨年の成績が悪かったBOPについては、話し合いに少し時間がかかりましたけど、うまくまとまりましたので、こうしてヤマハの監督を引き受けることができました。堀川さんの下で3年間、みんなすごく一生懸命やっていたし、惜しかったところもありましたが結果は7 位。今シーズン、監督を引き受けたからには、ここまで重ねてきた経験や努力を結果に残し、我がチームをトップまでいかせることができるよう、責任を持って力を出していきたい。ヤマハとの契約を最優先に考えていたので、今は来てよかったと思っています。

—— 3年間、サポートの立場から見ていたヤマハの印象は

シューラー ● ヤマハのレベルが落ちたのではなく、他チームが力をつけてきたと思います。トップリーグ全体を見て、東芝・三洋をベースにした時、フィジカル、スキルなどいろいろな角度で力不足を感じました。トップチームは、15人が同じレベルであり、計算できるリザーブがいる。もちろん、ヤマハの選手もこの3年間で成長したし、一生懸命やってきましたが、チームとしてトップと肩を並べるまでには達していない。それがシステムの部分的な差として表れたのではないかと。例えば、プレー面でディフェンスに人数をかけボール出しを遅らせるといった判断や、他のプレーとのリンクをみんなが考えやっていく。大きな差というより、この小さな部分に差があったのは、やり方を若干変えていくことで、結果が出てくると思います。

—— 昨シーズンまでのヤマハは、型どおりにきれいにプレーしようとしすぎていた印象があります

シューラー ● 全てがうまくいかないと動けないというような、システムについて深く考えすぎていたのかもしれません。ラグビーはシンプルなスポーツ。目の前の状況を読み判断し動くことが大切。システムを考えすぎると、LIVEの動きに反応できず、どうしても遅くなる。全体的にシンプルにして、局面を自分の力で十分勝てるという自信や意識をつけておけば、ずいぶん違ってくると思います。

—— 昨シーズン、成長を感じた部分は

シューラー ● 去年、非常に成長したと感じたのはラインアウト。シンプルにしてかつ、スピードを求めた結果、マイボール獲得率は日本一ではないでしょうか。これは、浜浦さん、畑さんらコーチ陣や、世界を舞台に戦ってきたルーベン選手やローリー選手の影響。今シーズンは春からルーベン選手とローリー選手がいることは、ヤマハにとって非常に大きく、一緒に練習するだけでみんな成長している。去年のセットピースを今年のベースにして、それプラスコンタクトや、細かいところで更なるステップをしていけば、十分上位チームと競争ができる力を持っていると思います。

また、スクラムも安定しました。特にマイボールキープは計算できるレベルまで成長しました。他にもヤマハの優れているところは、いいセットがあればほとんどのゲインを1次で切っていること。トライの多くは、1次、2次でゲインを切り、9番を入れても5パス以内。ただ、いいベースがあったものの、 phase(フェーズ:局面)を重ねてトライができなかったことは残念。今シーズンは、collision(コリジョン:衝突)をベストフェーズにうまくリンクさせ、もっと野生になりたい。ベースレベルアップを続けていくことが大切です。

—— 今後、順位をあげるために必要なものは

シューラー ● 何人かの選手は各国の代表で抜けていますが、春のフォーカスとしてポイントは4つ。

 (1) コリジョンのレベルアップ
 (2) 環境
 (3) ビジョン、ディシジョン(vision、decision)
 (4) シンプルなアタックシステム

(1)については、どんなにいいシステムがあっても基本のところで負けてしまうと難しい。コリジョンを自らコントロールし、ラックだけではなく、オフロードやタックル、モールといったいろいろなオプションに対し、コンタクトに入る意識を変え、コリジョンをさらにステップアップさせていく。(2)は、一体感と成長しやすい環境にフォーカスを当てていく。(3)のビジョン、ディシジョンは、シンプルにして自分の周りを見て判断すること。(4)は、早い時期から攻撃のシステムに取り組み、全員が揃う夏に向けやりやすくしていく。選手へ、春はこの4つをクリアにしようと、最初のミーティングで伝えました。

—— 練習に足を運ぶと、非常にいい雰囲気を感じます

シューラー監督

シューラー ● 頑張っていますよ。今年はできるだけみんなで練習をすることから、一体感を作り上げようと思っています。ウェイト後にグラウンドで2時間半以上の練習は、きつく長く感じるかもしれません。でも、リフレッシュする時間を与えているし、それによって選手らは楽しんでやっている。もちろん、春は元気いっぱいですから。厳しさを楽しむ空気が、周りに対していい雰囲気を発するのかもしれません。

—— 選手からは『早く試合がしたい』という声を聞きました

シューラー ● オープン戦の日程を例年と比べれば、チームが遅れているように見えるかもしれません。でも、決してさぼっていたわけではありません。4月の全体練習開始の1ヶ月前から、ミニグループでいろいろなトレーニングをしてきました。測定項目の中で30%は選手の個人記録が出て、1500m走の測定も何人かの選手は自己ベストを更新。フィジカルコンディションは順調だと思います。春は、これからの基本となる部分が大切なので、コーチングスタッフ、トレーニングスタッフ、メディカル陣がうまく連携を取っています。

—— 関西社会人リーグでヤマハを優勝に導いた時と、現在のチームの違いを感じる部分はありますか

シューラー ● 関西社会人優勝時は、バックスに外国人選手がいて、フォワードは日本人選手でしたね。最近は、フォワードに外国人選手を入れたりと、少し変えてきていますが、その他の部分ではさほど変わっていないし、ヤマハとしての良いものは順調に育っている。スキルのレベルは今のチームの方が上、僕らの力でそれを活かすことができれば、結果に繋がると思います。

シューラー監督

「コリジョン」。衝突を意味するこの言葉を、監督就任後からよく耳にします。練習前後、監督とリーダーが膝詰めで話し合う光景も、「コリジョン」のひとつ。

—— 指導をしていく中で、経験からこれだけは伝えたいと思うことは

シューラー ● シーズンスタートのミーティングで、どんなことに対してもこの4つを忘れないで欲しいと伝えました。

 (1) energy(エナジー:気力)
 (2) accurately(アキュリシー:精度を高く、正確性)
 (3) head(ヘッド:頭。しっかりとフォーカスをする)
 (4) heart(ハート、心)

(1)と(2)は、truth(トゥルース)のように信じること。(3)と(4)は愛。ラグビーだけではなく、普段の生活や仕事においても通じるものがあり、この4つがあれば人間として成長できる。ただ、ひとつでも欠ければアンバランスとなり、なかなか前に進めない。コーチもいろいろやりますが、あくまでもプレーするのは選手個人。その個人が強くなれば、結果としてチームは強くなる。そういう意味で、何をするにしてもこの4つの言葉を頭において欲しいと。例えで、手を伸ばしても届かない天井のライトを触りたい時にどうするか。方法としては、いくつかのテーブルを積み重ねることで達成できる。でも、テーブルの足が1本足りなかったり、横から押されると崩れてしまうのではなく、しっかりしたベースがあれば崩れずに高いところに十分手が届くよね、という話をしました。みんなオッケー、オッケーと言っていましたので、理解してくれたと思っています。

—— 1992年に来日し、日本での生活が長いケビン・シューラー監督。ヤマハに対する愛を表現するとしたら

シューラー ● 形で表すのは難しい。今、家族はニュージランドにいますので、寂しい時もありますが、ヤマハには声をかけていただき、ベリーハッピー。充実した日々を過ごせているのもヤマハのおかげ。本当に感謝しています。今年、ヤマハのブランド価値を上げることができるよう、できる限りの力を尽くしていきたいと思っています。

—— 大学卒の新人選手の印象は

シューラー ● みんなメンタリティがあり、あきらめない、ギブアップしないという印象です。大学でも活躍した強い選手の集団だと思います。今年のヤマハは40人と絞ったメンバーでシーズンを戦うため計算が必要。特に、新人選手に関して今のうちから計算できることは非常に嬉しい。イッツ、グッド。春のオープン戦から使っていく予定ですが、早いと思いますか?そんなことはありません。

—— 外国人選手の活躍に期待するものは

シューラー監督

シューラー ● ルーベン選手やローリー選手は、昨シーズンの春、途中から来たことで、遠慮していた部分があったと思います。経験豊富な彼らから助言したい、でも日本語が話せず、チームの輪を乱してはいけない、そう考えていた時期はあったでしょう。2年目の今年は、春のスタートからチームに合流し、非常にいい影響を与えています。ルーベン選手は多くのキャップを持っているし、昨シーズンのトップリーグベストフィフティーンに6番で選ばれました。ローリー選手は Super14の経験があり、今でもプレーは本物。今年きたモセ選手を合わせたフル装備の3選手には、ヤマハがひとつのチームになるよう、日本人選手とうまく絡み、一体となったプレーを見せて欲しい。そして本物のリーダーシップを発揮してもらい、次世代のプレーヤーに見せてくれることを期待しています。

マレ選手は、サモア人の特徴でもある静かなタイプ。口に出さない分を、プレーで見せリードしてくれれば。グランタ選手は、昨シーズンリザーブに入っているよう、リーダーシップがあり、コミュニケーションに長けた選手。2人とも突破力や得点力を持っているので、思い切ったラインブレイクをはじめ、力を出してくれるでしょう。

2年目の朴選手は、1年目にあまり出番がなかったけど、とても強い選手。今年はプロップにフォーカスして取り組ませたい。ヤマハのプロップは、昨シーズン終了後に伊藤選手と北川選手の2人が抜けたことで、人数が全体的に少ない。特に山村選手のポジションは、彼がノンストップでプレーしているため、バックアップが必要となってきます。境川選手、野中選手、朴選手とみんながステップアップし、俺が出る!と手を上げてもらいたい、そう期待しています。

どの選手も今持つ力を遠慮することなく全部出して欲しい。力の出し惜しみは、勿体ないですから。

—— 今シーズン、モールの引き倒しが認められなくなり、ルール改正がありました

シューラー ● 日本は、Super14のようにフリーキックを採用していないし、基本的にスクラムから後方5mのオフサイドラインは、昨年と変わらないので、さほど大きな問題ではないと思います。モールコラプシングは、モールだけを見るのではなく、最初の接点、コンタクトの部分でしっかり止めていくこと。そうしないと、ペナルティに繋がり結果、テリトリーを取られてしまいます。逆にマイボールラインアウトの獲得が安定しているヤマハにとってみれば、好条件な面でもあり十分、対応はできると思います。

—— 春の時点で気になる他チームはありますか

シューラー ● まずは、自分の家でもあるヤマハをきれいにすることが一番ですね。去年のトップリーグを見た時、ラスト1試合まで、4位から8位の順位がわからず、どのチームにもチャンスがあったことは、Super14のようすごく楽しかった。できることなら、ヤマハを含めトヨタや神戸、クボタといった順位のチームが、もう少しトップチームと毎週いいゲームができるようになれば、もっと日本のラグビーは楽しくなるはず。ステップアップしている各チームと、メインシーズンで戦うことを楽しみにしています。

—— 今年のチームスローガンは

シューラー ● 日本代表メンバーをはじめ、全員が揃ってから発表で、夏ぐらいの予定です。新型のV-MAXのよう、新型ヤマハを楽しみにしてください。

—— 来週から始まるオープン戦に向けた見所は

シューラー ● コンタクトですね。ヤマハのコンタクトが強くなったというのを、皆様に見ていただき、感じてもらえればハッピー。コンタクトがないと、どんなにいいシステムがあっても、対応しきれませんから。初戦のNTTドコモ戦は、多くの選手にチャンスを与えたい。そしてイングランド州選抜、トヨタ、織機、神戸に対しては、ヤマハのレベルがどの程度かを見ていきたい。全員が激しく、フィジカルのある野生的なプレーで、チームに自信をつけたいと思っています。2連戦が続く厳しい日程は、あえて作りました。トレーニングではなく、短い間隔で、強い相手と本気のゲームをおこない、結果が残る試合を多くやることから、コンディショニングをコントロールし、ベストコンディションを積む経験ができ、これからの課題も明確になってくるでしょう。特に、昨シーズンリーグ最終戦で、神戸にはやられているので、やり返すというか。ヤマハが自分達のベストを出せば、結果はついてくると思います。

—— ファンへのメッセージをお願いします

シューラー ● ヤマハの選手は毎試合、グラウンドで全力を出し切ります。楽しいラグビーも勝つためにプレーしていますし、皆様の声援はとてもプラスになります。この1年が長いシーズンになるよう、応援をよろしくお願いします。

シューラー監督

インタビュー:清水良枝

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