今季のヤマハ発動機ジュビロにとって唯一の九州での公式戦は火の国、熊本が舞台。相手は九州ラグビーの伝統チーム、九州電力キューデンヴォルテクス。地の利を生かすべく、多くの応援団と共にKKウイング入りした九州電力に対し、ヤマハ発動機ジュビロも九州出身の選手が9名おり、その家族や友人らが朝から駆けつけ、さらに磐田市からや東京からのファンも集まり、正午のキックオフを待つばかりとなった。
九州電力のキックオフで始まった第9節、立ち上がりから九州電力は素早いディフェンスを見せ、なかなかヤマハにチャンスを作らせない。ウイングの中園選手が積極的にアタックを仕掛けるも、執拗なタックルを受け、なかなか前に進むことができない我慢の展開となった。
先に点を奪ったのは九州電力。ディフェンスからチャンスを作り、ヤマハゴール前のラインアウトをキャッチすると、大声援を受けた九州電力のFWが一気にモールを押し込み、最後はドハティ選手がトライ。スタニフォース選手のゴールも成功し、0-7とする。
思いがけない力ずくの失点に奮起したヤマハフィフティーンはすぐに反撃を開始。スクラムハーフの矢富選手が起点になり、FWとBKが一体となった連続攻撃で、九州電力ゴール前に迫る。ゴール正面でのペナルティーを得ると、すかさず矢富選手が自らボールを持って、トライを狙いに走りだす。ここで孤立しないのが今年のヤマハ。すぐに全員が反応し、大田尾選手のトライに繋げ、五郎丸選手のゴールも成功し、7-7と試合を振り出しに戻す。
その直後、ヤマハは勢いに乗ってボールを保持し、今度はレヴィ選手が落ち着いてインゴールにタッチダウン。難しい角度のゴールを五郎丸選手がしっかりとクロスバー成功、14-7とリードを奪った。この連続トライで完全に流れはヤマハに傾くかと思われたが、この日の九州電力はディフェンスの集中力が高く、再びラインアウトからモールを押し込み、トライを奪い返し、14-12でヤマハは2点のリードで前半を終えた。
後半開始直後、スタジアムがどよめく。九州電力のベテランロック、吉上選手がトライを奪い、ゴールも成功、14-19と逆転に成功する。「ボールをキープできたが、早い展開ができないほど、九州電力のディフェンスは激しかった」とシューラー監督が唇を噛んだように、ヤマハにボールは出るが、ひたむきな九州電力フィフティーンのタックルに攻めあぐむ時間帯が続く。後半20分を過ぎ、攻め疲れがヤマハ選手の表情に出てくる。5点のリードを維持したまま、今季初勝利を狙いたい九州電力は残り15分に守護神、ナイサン・グレイ選手を投入し、試合をエンディングに導いていく。
残り10分過ぎだろうか、突如、KKウイングの大型ビジョンに異変が起きた。それまで正常に機能していた電光表示の時計が急に消え、電光板は真っ黒に。残り時間がわからない。かつてのラグビーの試合のように、レフェリーのみぞ知る、残り時間。接戦という状況を電光板のアクシデントがさらにスリリングなものにし、一種独特の緊張感がスタジアムを覆う。
ヤマハ陣で試合を進めたい九州電力だったが、ヤマハの春から強化してきた接点(コリジョン)の強さが、ここで発揮される。ヤマハがラックからボールを奪うと、大田尾選手は慌てることなく、蹴りださずに落ち着いてBKに展開し、ボールを保持したまま、少しずつ陣地を挽回。その後も大田尾選手がじっくりとヤマハ選手を前進させる。
勝負の分かれ目は僅か一つのパスに凝縮された。ラックから出たボールが外で待っていたプロップの山村選手に渡る。丁寧に両手でボールをつかむ115キロの巨体が、しっかりとディフェンダーをひきつけると、この試合が今シーズン初先発のフランカー八木選手にボールをパス。パスを受けた八木選手はBK顔負けのカットインで一気に九州電力のディフェンスラインを割り、ゴール中央に同点のトライを決めてみせるファインプレーを披露。そして、そのゴールを名手・五郎丸選手が高々と蹴りこみ、21-19と再逆転に成功する。その直後だ。勝利の女神はヤマハに試合終了のホーンを鳴らし、歓喜のノーサイドを与えてくれた。そして、最後まで火の国での試合にふさわしい闘志を見せ続けた九州電力選手には場内から惜しみない拍手が鳴り響いた。
マンオブザマッチには終始、冷静なゲーム運びを見せた大田尾選手が選出された。
☆同点トライを決めた八木選手
「磐田市から遠い九州までやって来て、負けて帰りたくないと、試合中ずっと思っていました。負けて帰ると、移動が長く感じられ、辛い時間を過ごすことになりますので。今日はラインアウトやブレイクダウンでの反則を取られ、苦しみましたが、試合中に打開策を考えつくことができるのが、今のヤマハの強み。プレーオフ進出に向けて、一つ階段を登ることができた試合だったと思います。これからも応援、宜しくお願いします」